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「その女アレックス」ピエール・ルメートル著 橘明美 訳 [感想文:小説]

 発端はアレックスが誘拐される場面である。激しい暴力で彼女は拉致される。その目撃情報が警察へ通報され、小男カミーユ警部を中心に捜査が始まる。被害者アレックスが主体の場面と警察の捜査が描かれる場面が交互に語られ、誘拐事件の謎解きとアレックスの身に迫る危機が読む者を引き込む。
すると暴行目的と思われた誘拐が別の姿を現わす。そこから読者は、アレックスという女が何者なのかという謎へ導かれる。この謎が解かれる時、周到な伏線が回収される妙味と、凄惨な孤独の旅路を味わうだろう。
 この小説の良いところは、まず、アレックスを巡る謎のエグさだ。それから、生々しい暴力描写。そして、どんでん返しの爽快感というわけにはいかないが、読者を共犯者にしてしまう伏線の張り方とそれらを結び合わせてゆくクライマックスが見事だ。
サイド・ストーリーとして、カミーユ自身の来歴、ユニークな同僚と上司が描かれるが、それほど粒だった感じはない。どちらかと言うとばらばらな印象だ。警察ものについてのテーマを持っていない点が出てしまっているのだろう。
また、捜査の行程で見せて欲しい街の表情があまり描かれていない。季節感も希薄。
堂々たる傑作にはやや遠い。が、描写が結ぶイメージはしっかりしていると思う。後味が残る佳作。

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